2つのみかん

片手の生活も少しずつ慣れて来た。
時間配分も分かって来たので、段取りも良くなった。

しかし…

朝にこんな出来事があった。

いつものように起床して、コーヒーとヨーグルトとパンの朝食を用意していた。
パンの横には、小粒の甘そうなみかんがあった。

前日の夜にMy wifeが食べていたのを覚えている。

食べようか悩んだ。
しかし、いつものようにパンを食そうとした。
ただ、パンに塗るジャムの瓶を開けるのは、朝一の難関なので、やっぱり甘そうなみかんを食べる誘惑に負け、2つをポケットに押し込んだ。

コーヒーとヨーグルトを食卓へ運び、みかんをポケットから出し食卓へ置いて着座した。

コーヒーを飲み、ホッとする朝の大切な時間だ。

普段はブラックだが、疲れている時や寒い朝には砂糖を入れている。
今朝は、砂糖入りのコーヒーで、口の中で広がる甘さと身体に糖質が染み込んで血糖が上がる感覚が好きだ。

ヨーグルトには、甘い蜂蜜を入れてある。
コップを動かさず、片手でヨーグルトを混ぜるのも上手くなったものだ。

そして、小粒の甘そうなみかんに手を伸ばす。
一瞬、どのように剥こうか悩み、ヘタがついている頭側からアプローチした。

親指をみかんの中心に差し込み、半分に分割しようとする。
すると、ジューシーな黄色い果汁が溢れ出す。
柑橘類の独特の香りを放ちながら、果汁のしずくが食卓に落ちて行く。

甘いみかんに多い、皮が極薄である品種だった。
みかんを割ろうとするも、まるで生きているかのように親指に吸い付いてくる。
右手の指先だけの動きでは割らせてくれない。

どうしようか悩んでいる時に、背後で物音が聞こえたので振り返ると、遠目で様子を見ているMy wifeが居た。

目の奥には、わずかに赤い炎が見えた気がした。

少し甘えて剥いてもらおうかと思い、困っている感じを表情と態度で示した。

すると…

「なんでみかん食べようと思ったん?」と少し鋭い口調で質問された。

瞬時に生き抜くために習得して来た防衛反応が働いた。
確実に、目の奥の炎は気のせいではないと悟った。
最適解を探そうと脳内が活動する間も無く、次の攻撃が発せられる!!

「食べたかったん!?」

やばい!これはやばい!確実に殺される!!
食べたらダメだったみかんなのか??
どうする?判断を誤れば、瞬時に葬り去られる!!
みかんはたくさんあった!一つや二つで消されるほどの逆鱗に触れるはずはない。

My wifeの目の奥は、明らかに燃えているではないか??
何故だ?何が行けなかったか???
答えが見つからないので、素直に答えることにした。

『昨日、美味しそうに食べてたから、食べたかってん。』

防げるのか?この当たり前過ぎる回答で、先制攻撃を防ぐことができるのか???

2メートルほど離れていたのだが、My wifeは近づいて来た…

ヤバイ!!消される!!確実に消される!!!
親指に刺さったみかんからは、果汁と手汁が混ざった混合液がさらに食卓を濡れ濡れにしてしまう。

近づいてきて、私の頭上に立ったMy wifeはこう言い放った。

「食べれると思ったん?」

座っている私は、左手は使えないし、右足も負傷して自由に動かないのだ。
なので、確実に強者はMy wifeだ!
蛇に睨まれた蛙とは、このことだ…

現実では、窮鼠猫を噛む!なんて、あり得ないのだ!
逃げることも出来ない、攻撃することも出来ない、防御しても防ぎきれるのか分からない…

どうすることもできないので、無駄な思考を止め、言語の受け答えのみに意識を向けることにした。

『うん。食べれると思ったんやけど…皮が薄くて片手では難しかった。』と答えた。

即座に高圧的な返答が返ってくる。

「で、どうすんの???」

これは?もしや?
ツン!としておいて、デレ!とするパターンなのか?
剥いて欲しい!と伝えることで、しゃ〜ないなぁ〜♡というラブラブなコミュニケーションが成立するのでは???と頭の中がお花畑のような思考が芽生えた。 

ということで、上記思考の通り、教科書通りの返答を笑顔で行う。

『剥いて欲しいなぁ〜♡』と。

間髪入れずに返答が来た!

「手が汚れるやん!!!」

:(;゙゚’ω゚’):……………

やべぇ〜ガチや!ガチギレや!!
甘い声で末尾にハートなんて付けてる場合じゃなかった。
頭の中の春のお花畑は、真冬の豪雪地帯の雪景色に変わった。

My wifeの顔色は何一つ変わらない!!
しかも、目の奥の炎はさらに燃えているではないか!!!
ヤバイ???確実にやられる…

もうどうあがいても同じだ!
懇願するしかない!
生きるために!

『ごめんなさい。剥いて欲しいです。』

一瞬の間が生じたが、
『化粧してたのに…手が汚れるやん!』とMy wife!

ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
もう死刑執行台でギロチンの紐を切られる数秒前の状況だ…

懇願するしかない!
助けを求めるしかない!
泣いて自分の罪を悔い改め、わずかな希望の糸を繋ぐしかない。

『ごめんなさい。考えが甘かったです。みかんを剥いて下さい。』

同じような言葉しか浮かばなかった…

ふぅ〜と息を吐いた後に、My wifeはみかんを剥いてくれた。
そして、一つまるまる私の口に入れてくれた。
(分割して味わいたかったんやけど、そんなこと言えるはずもない。)

『ありがとう。やっぱり甘くて美味しいわ』

と感謝と喜びを表現する。
特に返事が返ってくるわけではなく、無言だ。

目の前にもう一つのみかんがある。

どうする?一つで終えるか?
もう一つ剥いて頂けないか確認すべきか??

みかんは、かなり甘くて美味しい。
ゆっくり味わって食べたい。
生死の境界線に立っていたから、一際美味に感じたんだろう。

恐る恐る伝えてみる。

『もう一つ剥いてもらってええかな?』

My wifeと視線が合う。
もはや呆れている感じ…
目の奥にしっかりした炎は健在だ。

「もう一個剥かすの?ふぅーん…」

そう言って、無表情のままみかんを剥いてくれるMy wife。

『ごめんなさい…』と謝る私…w

これはTwitterのネタになる!
そう思って写真を撮った。

すると…
「なんで撮ってるん?どうすんの?」とMy wife。

『いや…せっかく剥いてくれてるからさ。優しいなと思って…』と私。

返答はないまま、みかんを剥いてくれている。

剥き終わる前に、一つずつ食べたいので置いてもらうことを伝えようとすると…

喋ろうとしている口元に、何も喋らせまい!との思いか?目の奥の炎が乗り移ったような、火の玉ストレートを投げられてしまいTHE END!!www

想いを言い出せず、みかんを口から出せず、そのままモグモグして飲み込みました…

そして、一言。
『ありがとうございます。』
そう伝えると同時に、みかんの皮を持ってMy wifeは立ち去って行った。

死なずに済んだんだ。
しかも、味わうことはできなかったが、甘いみかんを2つ食べることが出来た。
生きていることの喜びに感謝しつつ、何故にMy wifeは阿修羅に成り果てたのだろうか?考えた。

色々と考えた結果、導かれた答えは1つだった。

クリスマスイブなのに、プレゼントを渡していないからではないか???
クリスマスイブなのに、早く帰って家族団欒の時を過ごすことを約束しなかったからではないか???

違うかもしれないが…
プレゼントを渡されて嫌がる人は居ないだろう!

明日は、整形外科の受診後は時間がある。
クリスマスプレゼントを購入してから家に帰ろうと心に誓い、仕事に向かうのであった。

私にはサンタは現れないが、負傷してようが何してようが、私はサンタにならなければ幸せに過ごせないことを知ったクリスマスイブであった。

尚、TwitterはMy wifeに捕捉されており、幸せに暮らすためには、ネタとして使用できないのである。
よって、補足はされているが目を通すことのないブログに記録として残しておくこととした。

執筆者:changingman 兼松大和

※当ブログ内容は、事実に基づき記載されています。忙しい朝の時間帯に傷を負った夫を介抱するMy wifeの優しさを伝えられたら幸いです♡

2 件のコメント

  • 時々拝見してます。

    あの美しくて優しそうな奥様が・・・そんなはずはないと思う

    • 「60歳はスタートだ」さんへ
      コメントありがとうございます。
      美女の中には野獣が住んでるんですよ!(笑)
      とても優しく、私にはモッタイナイぐらいの妻です。

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